日本中の大半の信号機の立ってる位置が間違っています。間違っているというのは交通ルールの趣旨や概念と食い違っているという意味です。

 まず、交通ルール上は青信号は『停止線を超えて通行しても良い。』、黄色信号は『停止線で安全に停止できないと判断した場合は、停止線を超えて通行しても良い。 』、赤信号は『停止線を超えてはならない。』です。これらのルールを見ただけでも信号機と停止線は切っても切り離せない関係であることが判ります。そしてそれぞれの色の信号の意味を理解した上でルールとの整合性を考えれば、車両用の信号機は停止線の真上に設置するのが正しいと言えます。

 この考え方に従えば、交差点の信号機は全て交差点から見て外側に向くことになります。麻雀やトランプゲームをする時のように、自分の手札は他のプレーヤーからは見えなくなります。とりあえずこの配置を『トランプゲーム配置』と呼びます。ですが大半の交差点では信号機は交差点の内側を向くように設置されています。このことで以下のような不都合が生じています。

 ・複雑な形状の交差点(五叉路や六叉路等)では、自分の見るべき信号機がどれなのか迷いやすい。
 ・そもそも複雑な形状の交差点では、侵入してくる道路に対してちょうどいい角度で信号機を設置するスペースを物理的に確保できないケースもある。
 ・右左折をして交差点の出口に向かう際に、目の前に赤信号が存在し、一瞬ためらってしまう。
 ・車線の多い(道幅の広い)道路同士の交差点だと、停止線と信号機との距離が遠くなる。そのため止まるか行くかの判断材料である信号機が遥か先にあるのに、停止線は目前という状況が生まれ、無理な通行(信号無視ギリギリ)を誘発しやすくなる。
 ・信号機が交差点の内側を向いている為、他車の信号の色が見えてしまう。本来自分の信号が青になって初めて発進すべきところを、他者の信号が赤になるタイミングを見計らって発進すること(見切り発車)ができてしまう。
 ・交差点が短い間隔で連続して存在しているときに、間違って一つ先の青信号で発進してしまう。

 これらは全て、信号機を交差点の内側に向けて設置している為に起きる弊害です。車両用の信号機は全て停止線の真上に設置すべきです。そうすればこれらの問題は起きえません。実際に交差点ではなく、ただの道路に横断歩道だけがあって、そこに信号機がある場合等は、停止線の真上に信号機がある事が多いようです。他にも信号機と停止線の位置が一致している例として、工事中で本来対面通行の道路が片側通行になっていて、信号機で通行を規制している場合や、トンネル火災時にトンネルへの侵入を防ぐための信号機などがあります。

 ではデメリットは無いのでしょうか。いくつか考察してみましょう。

 まず、歩行者用の信号機は道路の内側を向くように設置されています。車両用の信号機も同じように内向きで何がいけないのでしょうか。そこには理由が2つ存在します。1つめはルールの違いです。歩行者用の信号機と横断歩道は川にかかっている橋のように、車道を渡ることに対して規制をしていますが、車両用の信号は停止線を越えるか越えないかを規制しています。2つめは構造的なもので、横断歩道には始点と終点が存在しますが、車道には始点(停止線)しか存在しません。例えば横断歩道の無い三叉路などでは、車道には交差点を渡り切った場所に目印となるものはありません。そもそも車道では交差点の終点というものが明確に定義されていません。ルールも構造も違うので、おのずの設置すべき正しい場所も違ってくるのです。

 次に、すぐ思い浮かぶのは『停止線をオーバーして停止してしまった場合に、信号機が見えなくなり、次回の青信号を確認できなくなる』ということではないでしょうか。それはごもっともで、信号の見易さだけを論ずれば確かにその通りです。でも工事中で車線を規制している信号や、トンネル入り口の信号で、信号が見えなくなるところで止まってしまう車はほどんどいません。交差点でも同じことです。むしろ信号機がより手前に存在していることで、その地点を目標に止まるか行くかの判断をするようになります。目標物が交差点を越えた先ではなく、交差点の手前になる。交差点の安全にとってとても理想的ではありませんか。それでも停止線を超えてしまう車は、青になった時に後ろの車からクラクションを鳴らされるか、停止線オーバーで違反切符を切られるだけのことです。

 ただ、見易さにも配慮が必要ということにも一理あり、停止線から1〜2m以内といったところが現実的ではないかと思います。

 もう一つ、『右折信号(→)はそこじゃまずいでしょ。』というご指摘、ごもっともです。通常の青信号であれば右折を待つ車両は交差点中央まで進んでしまいます。そこからは『トランプゲーム配置』の信号機は見えません。そこで考えました。右折信号は対向車線の信号の裏側が良いのでは。右折待ちというのは対向車線があるからこそのものなので、そこには対向車線用の信号機も存在します。角度的にもその裏側は丁度いい場所となります。

 そしてもうひと工夫。この部分に設置するのは右折信号(→)と赤信号と黄色信号のみとします。青信号はあえて設置しないようにします。なぜなら必要ないからです。もうすでに青信号で停止線を超えて交差点内に侵入した右折待ちの車両にとって、直進車や左折車の信号が青かどうかという情報は必要ありません。集中すべきは、対向車や歩行者が全くいなくなって自分はこのまま右折できてしまうのか、はたまた右折信号(→)が青く光ってくれるかの2点のみなのですから。あと、この場所に青信号が不要なもう一つの理由は、他の車両に見切り発車の判断の材料をとなる情報を極力与えないようにするためです。

 考察は以上ですが、一つだけ補足します。

 車道には交差点の終点というものが明確に定義されていないと書きましたが、この点について少しだけ説明します。明確に定義されてはいませんが、この交差点の終点というものに関わる違反は存在します。それは『交差点等進入禁止違反』です。交差点の先に車が詰まっているのに、青信号だからといって交差点に侵入し、そのまま赤になって他の車両の通行の邪魔をしてしまう行為です。交差点の終点に目印や線がない場合もありますが、他車の通行の邪魔になるような場所にとどまることは違反になります。気をつけてください。

(2021年11月19日追記)
 昨日、環七の若林陸橋交差点の手前で以下のような案内を見つけました。これこそまさに、信号機が交差点の内側に向いて設置されている欠陥を自白しているようなものです。このような案内が必要になってしまうことこそが問題です。しかもこの案内は日本語が読めなければ理解できません。こんな補足説明の案内が必要となるような交通ルールはルールとして失格です。もっとシンプルで分かりやすいものであるべきです。信号機を『トランプゲーム配置』にすればこのような案内も不要になります。